Box 2B Tollシグナル伝達経路:多機能経路
ショウジョウバエのTollシグナル伝達系におけるDorsalタンパク質とCactusタンパク質の相互作用に対する興味は、狭い範囲にとどまらない
Dorsalタンパク質は、免疫応答における遺伝子発現で機能する脊椎動物の転写因子ファミリーであるRel/NF-κBと相同性のある転写因子である
また、Tollシグナル伝達経路は、ショウジョウバエ成虫の感染に対する防御にも使われている
したがって、この仕組みは、胚発生において転写因子が核内に入るべきときまでそれらを細胞質に留めるための特殊な機能というよりも、遺伝子発現や細胞分化を制御するために広く用いられている機構ととらえるべきである
Tollシグナル伝達経路は、胚発生から病気に対する防御まで、多細胞生物において色々な局面で使われている、進化的に保存された細胞間シグナル伝達経路のよい例
Rel/NF-κBファミリーのすべてのメンバーは一般的に、細胞が適切な受容体によって刺激を受けるまでは、細胞質で不活性状態に保たれる
細胞が刺激を受けると抑制タンパク質が分解され、転写因子が解放される
次に、この転写因子は核内に入り、遺伝子の転写を活性化する
https://gyazo.com/2c317c46d9eda46be910fa8c72ec9855
ショウジョウバエの胚のTollシグナル伝達系では、Dorsalは、合胞体の細胞質ではCactusによって不活性な状態におかれている
TollがSpätzle断片の結合によって活性化されると、Tollの細胞内ドメインにはアダプタータンパク質であるdMyD88(Tube)が結合する
dMyD88はプロテインキナーゼであるPelleと相互作用して、これを活性化する
Pelleの活性化は、まだよく理解されていないさらにいくつかの中間段階を経て、Cactusのリン酸化と分解を引き起こす
これによってDorsalが解放され、核内に移行する
ショウジョウバエの成虫では、Toll受容体は真菌や細菌の感染により活性化され、Tollシグナル伝達系によって抗菌ペプチドの合成が誘導される
ヒトのToll様受容体は、ショウジョウバエと基本的に同様の経路で機能し、微生物の感染に対する自然免疫に関与する
IRAKとIκBはそれぞれ、PelleとCactusのヒトの相同タンパク質であり、このシグナル伝達系で同じ機能を果たす
脊椎動物でNF-κBは、Toll以外の受容体を解する細胞シグナルによって活性化される